“好き”は国境を越える

“好き”は国境を越える

2006年放送の韓国史劇『朱蒙(チュモン)』から2024年3月配信の『社長ドル・マート』に至るまで、日本での韓国ドラマ放送や配信、パッケージ制作、宣伝に携わっているチェ・ソンア。日本の音楽に魅せられて海を渡り、情熱と勤勉さで道を切り拓いてきた彼女は、日本と韓国を結ぶカルチャーの架け橋なのです。

▲映像プロデュース部のチェ・ソンア。“日本カルチャーに関わりたい”という強い気持ちがすべての原点
▲映像プロデュース部のチェ・ソンア。“日本カルチャーに関わりたい”という強い気持ちがすべての原点

いつか日本へと心に決めた高校時代

イ・シニョン、シウミン(EXO)、チェ・ヒョンウォン(MONSTA X)ら若手スターが豪華共演するドラマ『社長ドル・マート』をはじめ、話題の韓国ドラマの買い付け、国内プロモーション展開や、最近では韓国企業との共同制作も行っているポニーキャニオンの映像プロデュース部。そこで活躍する韓国ソウル市出身のチェ・ソンアは、思春期に音楽に目覚めました。

チェ・ソンア

中学生のころにイギリスのボーカルグループ・Take Thatに出会い、“絶対にイギリスに留学する!”と心に決めるくらいドハマりしました。その後高校に進学すると、バンドをやっている友だちができたり、ライブハウスに通ったり、ネットコミュニティを通じていろいろな国の音楽を知るようになったりする中で、日本のロックバンドに夢中になりました。歌詞でどんなことを伝えようとしているのかも知りたくなり、ひらがな・カタカナから日本語の勉強を始めたんです

音楽のほか、日本のドラマやアニメにも多く触れ、“日本に留学したい!”という想いが日増しに強くなっていったといいます。しかし、両親に反対されたこともあり、一度は韓国の大学に進学します。すると転機が訪れました。

チェ・ソンア

大学入学後、アメリカ留学をする妹の付き添いで私も1年間渡米する予定が、当時まだ中学生だった妹の身を案じた親が、妹は行かずに私だけアメリカ留学をしたらどうだと土壇場で言い出したんですね。でも、どうしても日本に行きたいと思っていた私は、勝手に手続き変更をして留学先を日本にしたんです(笑)

韓国の大学に1年通ったのち、語学留学のため日本に渡ったのは19歳のとき。自分の目指すものに向かい臆することなく一心に突き進むそのさまは、まさに勇往邁進です。

チェ・ソンア

語学学校に通ってアジアや欧米などいろいろな国から来た人たちと交流をしながら日本語で授業を受け、どんどん日本語をしゃべれるようになっていく日々がすごく楽しくて。初めての海外暮らし、ひとり暮らしなのに、まったくホームシックにならなかったんですよね(笑)。本当は1年で韓国に帰る予定だったんですが、もっと日本を深く学んで知るために、そのまま日本の大学に進学することにしました

選んだのは、文学部新聞学科。大学を出たら日本でマスコミ系の職業に就きたいと考えていたからです。

チェ・ソンア

新聞、放送、出版、映画、広告やインターネットなど、メディアコミュニケーション全般を対象に、それらが社会的にどういう役割を担い、どんな影響を与えているのかを考えるのが新聞学科なのですが……マスコミと人権、知る権利とプライバシー、その関係性の危うさを知れば知るほど、自分が進むべきはこの道ではないなと思い始めまして。“やっぱり自分は大きな影響を受けた日本カルチャーになんらかの形で関わりたい”という気持ちでレコード会社をメインにエントリーし、縁あってポニーキャニオンに採用してもらいました

韓流ドラマブーム黎明期の試行錯誤

▲今でこそ韓国ドラマとして根付いた時代劇。母国語とはいえ通訳までこなし、最初は苦労の連続だった
▲今でこそ韓国ドラマとして根付いた時代劇。母国語とはいえ通訳までこなし、最初は苦労の連続だった

ポニーキャニオンに入社後、自社の音楽、映像、アニメ作品を置いてもらうために神奈川エリアのレコードショップをまわる営業職を10か月ほど経験したのち、配属されたのは映像事業本部。韓国で最高視聴率52.67%という驚異の視聴率を記録した『朱蒙(チュモン)』の日本国内放送、パッケージソフト販売などの業務に、アシスタントとして携わることとなります。

チェ・ソンア

『朱蒙(チュモン)』に続くヒット作品として、『朱蒙(チュモン)』の主演俳優ソン・イルグクさんの次回作品『風の国』を早い段階で獲得し、特典映像用にロケ地取材が行われました。作品のメイン担当の蕎麦谷さんとソウル郊外にある大きな時代劇のオープンセットまで行って、極寒の中で震えながら主演のソン・イルグクさんの空き時間ができるのをひたすら待ちました。なんとか取材時間が確保できたときの感動と喜びは、今も忘れません。

こういった撮影現場や、韓国放送局・制作会社との商談では、通訳も担当しました。当時はまだ韓国サイドに日本語ができる方が少なくて、当社と相手側の通訳までせざるを得ないことが多くて。言語の違うそれぞれの発言を脳内で端的にまとめて速やかに伝えるには、集中力がいるんですよ。ものすごい通訳経験を経て、同時通訳に近いことができるくらい通訳能力が磨かれました。

また、アシスタントとはいえ韓国の取引先とコンタクトをとるのは私がメインとなっていたのですが、言葉の壁がないぶん、取引先の方々と早く打ち解けて話を円滑に進めることができたんじゃないかなとも思います

映像事業本部でアシスタントとして1年ほど経験を積んだチェは、歴史的背景にフィクション要素を取り入れたフュージョン時代劇の大ヒット作『イルジメ〔一枝梅〕』で、早くも独り立ちすることになります。

チェ・ソンア

『イルジメ〔一枝梅〕』の買い付けから契約、素材の取り寄せとチェック、パッケージ制作、宣伝、放送まですべて任されたんです。しかも、自分にとって初めての経験となる、日本の3社による共同事業。右も左もわからない中、先輩に助けていただきながら模索する日々でした。

パッケージをリリースする際には、デザイナーさんと相談しながらレンタル盤の表紙を巻ごとに変えて、ファンの方たちによる人気投票を行ったり。宣伝部の先輩のお力添えもあって、お菓子メーカーさんに宣伝用の梅味キャンディーを提供していただいたり。いろいろな方に協力していただきながら自分のアイデアを生かせたし、『イルジメ〔一枝梅〕』が多くの方々に愛される作品にもなって、本当に嬉しかったです

ヒット連発の秘訣はファン目線に立った付加価値

▲出演者からファンまで、携わるすべての人に喜んでもらえることが何よりもうれしい
▲出演者からファンまで、携わるすべての人に喜んでもらえることが何よりもうれしい

チェ・ソンア

ブックレットを写真集のような作りにしたり、俳優のインタビュー素材やメイキング映像を特典映像として収録したり。あまりに人気が高い作品はメイキング映像そのものを商品としてリリースしたこともあります。膨大な画像や映像素材の中から選別・編集するのはなかなか大変だったりはします。でも、SNSで手軽に情報を入手できなかったパッケージ主流の時代はそうした特典ならではの写真や映像が本当に貴重でしたし、今もファンの方たちに喜んでいただいていると思います。

ひとりでも多くの方に作品を手に取ってもらうために、たとえばパッケージデザインの色味にしてもすごく考えます。赤や青、緑など原色や強めの色を表紙に使うことが多かったころに、若い男女が主役のサクセスストーリーでありキラキラした恋愛ストーリーの作風にあわせて、パッケージのメインカラーを思い切ってパステルピンクにしたんですね。社内では心配する声もあったのですが、リリース後に営業担当の社員が『ショップの陳列棚に置いたらすごく目立つ』と言ってくれて。結果、多くの方に手に取っていただき、おかげさまでヒット作になりました

また、韓国俳優の来日がかなえば日本でのドラマ放送やパッケージリリースがよりいっそう話題となりますが、それにあたっては丁寧な説得交渉をしなければなりません。

チェ・ソンア

当時は今よりも、韓国ドラマの日韓での展開に時間差がありました。韓国での放送終了後、半年から1年経って日本でドラマ放送やパッケージリリースをすることになると、出演俳優がすでにほかの作品撮影に参加されていることも多く、どうしてもプロモーション稼働が難しくなってしまうんですね。そういうとき、交渉がとても重要になります。

来日プロモーションの意味や重要性の説明はもちろん、取材や記者会見、メディア出演、ファンの方々と接する機会などのプランを提案し、来日プロモーション効果を俳優側もイメージできるように努めました。そうやって熱意をもってプレゼンをすれば扉は開く、ということを学びました

時代の変化を見極め、韓国ドラマを世界に

▲韓国にルーツを持つ自分の能力を最大限生かせる仕事。今後は韓国ドラマを日本から世界へ広げたい
▲韓国にルーツを持つ自分の能力を最大限生かせる仕事。今後は韓国ドラマを日本から世界へ広げたい

携わるすべての作品に、愛と情熱を持って全力を注いでいるチェ。Huluにて配信がスタートした話題の青春ラブコメディドラマ『社長ドル・マート』は、自身にとって初めての試みが多くありました。

チェ・ソンア

『社長ドル・マート』は韓国の制作会社とポニーキャニオンの共同事業で、一緒にドラマ制作をして、配信や放送、パッケージリリースのほか、イベント開催や出版など作品に関するすべてのIPを持つことになりました。

会社が出資している作品となると動く金額も一気に増えますし、それに見合った結果を出せるか不安もありました。しかし、社内を納得させられるような資料集め、プレゼン方法など、上司をはじめたくさんの方の助けがあったおかげで無事に韓国ドラマのIPを持つことができ、どう運用していくのか約10年先までのプランも立てているんです。私ひとりでは絶対にやり遂げられなかっただろうし、チームメンバーはじめ力を貸してくださった方たちに感謝しています

また、『社長ドル・マート』の配信スタートに先駆け、キャストを招いてファンミーティングも開催。大反響を呼びました。

チェ・ソンア

放送してパッケージリリースをしてからイベントを開催するというのが、これまでの韓国ドラマ作品の宣伝の流れだったと思うんです。でも、イベント開催により、配信や放送前から盛り上げることができて。劇場上映前に出演者や監督が稼働してのプレミア試写会やレッドカーペットイベントを開催する映画に似た宣伝方法もありなのだなという学びがありました。注目を浴びる人気スターをお呼びするのは簡単なことではなく調整に時間もかかりましたが、無事に来日していただけて、ファンの方たちにもとても喜んでいただけて、本当によかったです

ファンの喜びは、チェ自身の喜びでもあります。

チェ・ソンア

SNSでファンの方の反応をチェックすることもあるのですが、『とても素敵な作品ですね』『日本で展開してくれてありがとう』『イベント楽しかった』といったコメントを見ると、やっぱり嬉しいですね。自分は間違っていなかったんだという確認ができるし、やりがいを感じられる瞬間でもあります

パッケージ主流時代から、配信主流時代へ。押し寄せる変化や多様化の流れの中で、感じていることもあるといいます。

チェ・ソンア

パッケージの特典よりも、手軽に観られるサブスクのほうがいい。そう思うユーザーが増えていると思いますし、コアなファンの方はもちろん、多くの方たちに配信や放送を観てもらえるための施策を練る必要があります。市場の変化に合わせて考え方やアプローチを柔軟に変えていくように心がけています

異国である日本で、母国である韓国のエンタメを広めるために日々尽力するチェ。今思うこと、そして未来に望むのはどんなことなのでしょうか。

チェ・ソンア

正直に言えば、日本語ネイティブと自分の日本語能力の差や、自分にできることだけではなくできないこともあるなということを思い知って悩んだ時期もありました。でも、今いる部署で私が担当しているのは韓国にルーツを持つ自分の能力を最大限生かせる仕事。自分の特技を発揮できる場所に配属してもらって、そこに長くいさせてもらえていることは本当にありがたいなと心から思っています。

『社長ドル・マート』の経験を生かして、今後も韓国ドラマの共同制作をしていきたいと考えています。韓国ドラマのIPを持つことになると、向き合う市場は日本国内だけにとどまらず、全世界に広がります。海外へのコンテンツ販売を担当する社内チームと連携して日本から韓国ドラマを世界に売り出すことにもチャレンジしたいです。

そして、私がやってきたことが、日本のエンタメ業界で仕事をしたい海外の方々の役に立ったり、背中を押すきっかけになったらいいなとも思っています。これからの時代をつくっていく世代に大事にしてほしいのは、好きなものに集中することと、もっと話せればと悔しい想いをしないための語学力。夢は大きく、羽ばたいてほしいです

※ 記事の部署名等はインタビュー当時のものとなります

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