映画が好き!が原動力──ポニーキャニオンの映画事業を支える「深き映画への愛」
音楽や映像などのエンタテインメントは、時代の風潮や技術の進歩に伴い、楽しみ方がますます変化してきました。そんななか、多彩な事業を展開しているのが“総合エンタテインメント会社”を標榜する株式会社ポニーキャニオン。魅力的な映画コンテンツを届けるべく日夜奔走する松谷 昂の、映画愛とビジネス思考を紹介します。
夏休みの自由研究はキューブリック──少年が運命の仕事に出会うまで
おそらくきっと誰にでも、子どもの頃に好きだったものや夢中になったことがあるのではないでしょうか。でも、成長するにつれて興味や関心が変化し、大人になってから「なぜあんなに好きだったんだろう?」と感じることがあるかもしれません。
一方で、大人になるにつれて好きな気持ちも強まって、やがてはそれを職業にしてしまう人もいます。ポニーキャニオンの松谷 昂もそのひとり。彼が少年時代に心を奪われたのは、そう、映画でした──。
松谷
両親の影響もあって、子どもの頃からとにかく映画が好きだったんです。家族で映画館に出かけたり、レンタルビデオを借りて観たり。ごくごく一般的な家庭でしたが、クラスメイトと比べると映画に触れる機会が多かったのは間違いないですね
学校で友だちに映画の話をしても、マニアックすぎて誰もついてこない……というのは日常茶飯事。「夏休みの自由研究で、スタンリー・キューブリックについて調べたこともありました」という言葉には、松谷がかねてから筋金入りの映画好きであったことが滲み出ています。
その情熱は大人になっても冷めることはなく、大学生になると自ら作品をつくるまでになりました。
松谷
学生時代は、友人と一緒に自主映画を撮っていました。芸術系や美術系の大学ではなかったものの、芸術文化や社会文化などを研究する学科だったので、おのずと周りの友人たちも自分に近しい思考の持ち主が多かったですね
好きなことを思いっきり楽しむだけの時間や自由が充実していた学生時代だった、と松谷は振り返ります。映画を撮ることもそうした日常のワンシーンであり、想いや情熱を共有できる仲間たちとの貴重な日々を送ったのでした。
松谷
当時は毎日が楽しすぎて、正直、働くことへのモチベーションは全然なかったんですけど、できるならやっぱり映画や音楽に携わる仕事がしたかった。就職活動ではその想いを一本の軸に据え、映画に携わることのできるさまざまな企業を受験しました
そんな“好き”を突き詰め続けた先にあった、ポニーキャニオンとの出会い。自ら開いた門戸の先には、松谷の想像以上の世界が待ち受けていました。
新潟県からカンヌまで──多彩な経験を積み、映画畑を渡り歩いてきた
ポニーキャニオンの選考において、松谷が伝え続けたのはたったひとつ──「映画が好きだから、映画の仕事に携わりたい」という一念でした。
松谷
どんなに想いが強くても、社会人経験のない学生が思い描ける範囲に限界があることは否めません。当社は制作会社ではないですし、自分の希望やイメージだけで仕事が成り立つとも思っていませんでしたが、純粋に映画に携わる仕事への期待は大きかったです
2007年に新卒社員として入社した松谷。最初に配属されたのは、レンタルショップやセル店の営業部隊でした。
松谷
レンタル店の担当エリアは群馬県、埼玉県そして、新潟県。ローカルな店舗にも足を運び、当社の商材を置いてもらえるよう地道な営業活動に励みました。
セル店は書店や雑貨店など、いわゆる DVDショップやレコードショップとは異なる店舗の担当でした。そして入社 3年目には、大手レンタルショップチェーンを巡り、店頭での商品展開の提案を行うエリアプロモーターという仕事でした
実は、この仕事は新たな営業展開の模索のために新設されたもの。松谷ともうひとりの担当者で関東圏をつぶさに回りながら、基盤を確立するところから模索し、奔走していました。
松谷
苦行なのかボーナスなのかわからないまま、とにかくいろいろな土地の店舗に足を運ぶ日々を送りました。新しい業務で、かつ何をしているのか見えづらく社内からは少し心配の声もあったものの、自分自身はすごく楽しかったし、現場の声を直接聴けるという意味で学びの大きい経験でした
その後、松谷は念願かなって映画部(現:ビジュアルクリエイティヴ本部)へ。邦画への共同出資や洋画の買い付け・パッケージ化・DVDのプロモーション展開を担う部署で、またも多様な経験を積むことになります。
松谷
最初は作品の買い付けや DVDの宣伝、他社と共同の製作委員会への参画など、幅広く兼務していました。初めてカンヌ国際映画祭に参加したのもこの頃でしたね。最初の 1年の兼務のあと、洋画メインで現在に至ります
松谷は洋画の担当として海外の映画市場に広く目を向け、成功が見込める作品を見つけ出してきて買い付けるという業務全般を担っています。
松谷
買い付けに、成功の方程式は存在しません。むしろ、あるのなら知りたいくらい(笑)。実際に観賞して買い付けることもありますし、企画書段階で決断することだってあります。
私はこれまでそれなりの本数の映画を観ていると思いますが、自分の意見をベースにしつつも他人の意見に耳を傾けるなどバランス感を大切にするよう心がけています
そんな松谷が出会った作品の中でも今も印象的な買い付けだったものは、日本でも大きな話題を呼んだ『ラ・ラ・ランド』でした。
心に火をつける作品との出会い。『ラ・ラ・ランド』のヒットの裏側
洋画の作品買い付けは、必ずしも完成作品を観てから決断できるわけではありません。『ラ・ラ・ランド』もそうしたケースのひとつでした。
松谷
いわゆるプリセールスといわれるもので、監督や脚本、キャストといった情報のみで判断する必要がありました。この作品に関しては、企画段階のキャストは著名ではあったものの、デイミアン・チャゼル監督が当時は日本で知る人ぞ知る存在だったんです
『ラ・ラ・ランド』は、ミュージカル映画。音楽やダンスなどどんな仕上がりになるか想像しづらい……と、松谷はプリセールスでの買い付けに慎重でした。
松谷
当時、監督の前作『セッション』は、日本ではまだ公開されていなかったんです。でも、ロサンゼルスの駐在員からは『アメリカではかなり話題になっている』という情報が寄せられていました。
そして『これは絶対に観た方がいい』と。そこで、実際にアメリカのマーケットに出張に行った時に、買い付けメンバーで劇場に行って鑑賞したんです
そして、情勢は一気にひっくり返ります。この監督の作品なら、すごくおもしろいんじゃないか……!?関係者のモチベーションはここで一気に高まりました。
松谷
何より印象的だったのは、緊迫したシーンの中に表現される作品のフレッシュさ。音楽映画なんだけど、それだけじゃない新しさがあった。買い付けに向けて、ぐっとアクセルが踏み込まれた瞬間でした
さらに、キャストの変更も良かったと松谷は語ります。
松谷
買い付けた後に企画時からキャストが変わりましたが、この絶妙なキャスティングによって大人っぽさが増し、作品のレベルが上がったと思います。
こうした変更もプリバイの難しさで、『ラ・ラ・ランド』では成功要因でしたが、失敗要因になることもある。賭けに近い側面も大きく、この仕事の難しさですが醍醐味とも言えるかもしれませんね
ほかにも『ラ・ラ・ランド』は配給会社などの共同のプロジェクトでもあり、そこでの足並みを揃えながら進めていきました。製作委員会を組織し、それぞれの立場から主張したり抑えたり。侃侃諤諤意見を交わしていくのも「良い意味で充実していた」と、松谷は振り返ります。
視野や行動はグローバルに、事業判断は慎重かつチャレンジングに、協業はきめ細やかに。映画というフィールドを駆け巡りながら、より良い作品を見つけ出し、世に送り出すのが、松谷の使命なのです。
すべての原動力は映画への深い愛。ポニーキャニオンで働く醍醐味
近年、映画や音楽を取り巻く市場環境は、技術進歩やユーザーニーズの変化にともない大きなパラダイムシフトを起こしています。その中でも最たる変化のひとつが、コンテンツの配信事業。事業の最前線に立つ松谷も、その風潮を肌身で感じています。
松谷
個人的には DVDのパッケージ作品が好きなんです。手に取れる物の質感に惹かれるんでしょうね。配信はポニーキャニオンの事業として重要な柱になっていくと思いますが、その一方でパッケージのニーズがないわけではない。そこもきちんと伸ばしていくための創意工夫は大切にしていきたいと思っています
多忙を極める松谷ですが、それでもやはり「映画の仕事に携われているのはすごく幸せ」と、その情熱が冷めることはありません。
松谷
『ラ・ラ・ランド』もそうですが、この仕事は決してひとりでできるものじゃないんです。むしろ、非常に大勢の関係者を巻き込み、協力しながら力を尽くして初めて成立する仕事。情報収集にせよ各方面の調整にせよ、チームワークは不可欠ですね
だからこそ、成功した時の喜びも大きいのだ、と、松谷は語ります。
松谷
これから一緒に働くなら、きちんと相手の話を聞いて受け入れられる人。もちろん、こだわりやポリシーは大切な要素です。でも、非常に多くの関係者と意識や足並みを揃えながらプロジェクトを遂行するシーンが多いので、主張と受容のバランス感覚が大切だと思います。
あとは、やっぱり映画が好きな気持ちと、仕事を頑張りたいという意志が大事。専門特化している企業が多い中で、映画に関して買い付けからコンテンツの発信までこんなに幅広く携われるのは、ポニーキャニオンならではの魅力です。だからこそ大変なことも多いんですが(笑)。映画が好きだから頑張れるんです
「思い返せば、新入社員の頃の営業活動も商材を深く理解する上で、この上ない経験として今につながっている」という松谷の言葉からは、揺らぐことのない映画への愛、そしてポニーキャニオンで働く矜持が表れています。
松谷にとっての良い映画──それは、何かしらの新しさを感じられること、必ずしも自分の共感は必要ない、わりと直感を重視する。
目を輝かせて語る松谷の姿には、映画と出会い、その魅力にとりつかれた少年時代の面影が自然と浮かび上がってくるようでした。
※記事の部署名等はインタビュー当時のものとなります。
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